日本は世界から見ても胃がんの発症が多い国で、臓器別の死亡者数・患者数では、第一位を続けてきました。食生活の変化、検診の普及、治療の進歩等で死亡数は徐々に減少し、男性のがん死亡数では平成5年に肺がんに1位の座をゆずり、最近では女性でも大腸がんが1位になりましたが、激減したわけではなく他のがんが増えたための結果にすぎません。
早期のがんはどの臓器でもほとんど症状がないのが普通です。早期胃がんも同様です。がん自体には痛みはありませんので、症状が出たとしてもたまたま合併した胃潰瘍などの症状が多いと言われています。また、がんが進行して症状が出たとしても、みぞおちの痛み(不快感、膨満感)、胸やけ、げっぷ、食欲不振、吐き気、貧血、体重減少など、胃潰瘍や急性胃炎や他の上腹部の疾患と大きな違いはなく、症状は当てにはなりません。定期的な検査がいかに重要であるかを自覚されることが大切です。
胃がんの予防法については明らかな科学的根拠のあるものはなかったのですが、最近ピロリ菌がかなり密接に関係していることがわかってきました。ピロリ菌は幼少期に感染するのですが、その時期にピロリ菌に感染しなかった人はほとんど胃がんにならないということがわかっています。ピロリ菌は胃に萎縮性胃炎という慢性胃炎を起こし、これが胃がんの発生母地になるのです。ピロリ菌感染者でもその一部の方が胃がんになるのであって、多くの方はならないのですが、胃がんの人のほとんどはピロリ菌感染者かまたは過去に感染していた人なのです。また、ピロリ菌は胃以外にも血小板減少性紫斑病(最近ピロリ菌除菌療法が保険適応になりました)や蕁麻疹や貧血など多くの疾患との関係も疑われております。つまり、百害あって一利なしと考えられ、私は、ピロリ菌は積極的に除去すべきと考えています。
胃がんの検査方法には、内視鏡検査やレントゲン検査があります。
胃内視鏡検査
一般的に「胃カメラ」と呼ばれる検査のことです。
直径10ミリほどの内視鏡を口から挿入し、胃の中の粘膜面をリアルタイムに細かく観察し、必要な場合は組織の一部を採取します。このような検査方法を「生検(せいけん)」といい、がんの確定診断をする上でとても大切な検査です。当院では高解析度の拡大内視鏡と早期がん発見に役立つNBIを組み合わせて、制度の高い診断を行っております。胃カメラは挿入時の嘔吐反射などのために辛いと思われている人もいらっしゃるでしょうが、当院では鎮静剤などを用いて可及的に苦痛のない検査を行うようにしています。検査を楽に受けられるようにするのが目的のほかに、小さな病変でも見逃しのない検査をするためでもあります。
胃レントゲン検査
バリウムを飲んで行うレントゲン検査のことです。
レントゲン検査は、粘膜の細かい観察能力では劣るものの胃の全体像や凹凸の変化をみるのに適しています。しかし、凹凸のない早期がんや色の変化は判断できません。また、レントゲン検査だと手術後の胃の形によって死角が出来たりしてほとんど診断できないこともあるため、当院では内視鏡検査をおススメしております。
とはいっても、手術の際には手術を決定するために必須で行われる検査です。
ほかに胃がんの発生リスクを推測する目的で行うペプシノーゲン検査(採血)があります。胃は胃酸を分泌する働きがありますが、慢性胃炎のひとつである萎縮性胃炎になるとその働きが衰えてきます。この萎縮性胃炎が胃がんの発生母地と考えられている胃炎です。つまり胃がんになりやすいかどうかを推測する検査であり、今現在胃がんであるかどうかを検査するものではありません。